第1回 心に残る卒業アルバム エピソード発表

入賞

新しい出会い

沼田 浩一 さん

小学校の同窓会の案内が来た。卒業してから30年。私は今まで一度も出席したことがない。小学校の時の友人数名とは今でも会うことがあり、それで十分と思っていた。だが、今回は担任の先生が最後の出席になるという。先生はかなりの高齢だ。私のことは覚えていないだろうけど、お顔だけは拝見しておかないと後悔するような気がした私は出席に〇をつけた。

同級生の顔と名前はすっかり忘れている。同窓会までの予習のつもりで卒業アルバムを開いてみた。すっかり忘れていると思っていたが、見ているうちに次々と思い出されてきた。懐かしくなってしばらく眺めていたが、どうしてもひとり、覚えのない男の子がいた。その子は集合写真にしか写っておらず、伏し目がちで表情は暗い。

気になった私は友人に、その男の子のことを電話で聞いてみた。友人も覚えがないと言う。結局、その男の子のことは同窓会で聞こうということになった。

同窓会当日。みんなずいぶん年を取っていた。予習はしてきたが、何名かは直接名前を聞かないとわからないほど変化していた。先生はあまり変わっていなかった。年相応に動きはゆったりだが、しっかりしておられる様子だ。

卒業アルバムを広げて思い出話に華が咲いてきた。私は男の子を指さして、みなに聞いた。しかし、みな一同に「知らない」「覚えていない」「こんな子いたっけ?」という。ひとりが「先生はこの子、ご存じですか?」と卒業アルバムを渡した。先生は眼鏡を上げて、写真を凝視すると、ゆっくり語り始めた。

「この子は、親の海外転勤が多くて、あちこちを転々としていた子なんだ。だから友達もできず、日本語も上手くなかった。転校してきたのは卒業間近な時期で、1カ月もいなかったからみんな覚えていないんだろう」

先生はいつもひとりでいるその子に何とか友達を作ってやろうと努力されたようだが、上手くいかず、結局卒業アルバムの撮影が終わったあと、卒業式を待たずに海外へ行ってしまったという。転校の直前に先生はご自身の力不足をご両親に謝ったそうだが、「転校続きだし、話すのも苦手だから友達はできなかったけど、卒業アルバムのおかげで同級生と一緒に撮った写真ができたと本人は喜んでいました」と言われたという。

それから、先生とその子との手紙の交流が始まり、それは今でも続いている。今は日本に住んでいるらしい。

誰かが「じゃあ、次の同窓会はその子も呼ぼう」と言った。髪の毛がすっかりなくなったやつが「これだけ時間が経ったらもう誰が誰かわからないしな」と言って全員が笑った。誰かが「共通の思い出がなくても、これから仲良くなって新しい思い出を作ればいい」と言った。最後に先生が「では、私もまだまだ出席して、思い出を作らなければいけませんな」と言った。

卒業アルバムから新たな出会いが始まることもあるんだな、という静かな感動が私の胸を打った。