第1回 心に残る卒業アルバム エピソード発表

入賞

大嫌いな卒業アルバム

ペンネーム: 谷弘 かずお さん

僕は卒業アルバムが大嫌いだった。
それは過去のトラウマが僕の脳裏をかすめるからだ。

高校入学当時、
牛乳瓶の底のようなメガネをかけていた僕は、
全てに自信がなく、卑屈だった。
何より、自分のことが大嫌いだった。

そんな自分から変わりたい
その一心で、メガネからコンタクレンズへ変えた。
それは些細な変化だったのだが、
その頃の僕には、世界が変わるほどの大きな変化を与えてくれた。
たったそれだけで自信が持てたし、卑屈な自分を忘れることができた。

過去の自分をすっかり忘れ高校生活を楽しんでいた。
そんな自分が卒業する日、事件が起きた。

卒業式に配られたアルバム。
合格発表を紹介する写真の中に、
大嫌いな自分が載っていた。
メガネをかけた見すぼらしい自分は笑顔で笑っていた。

当時の僕は、大嫌いな自分の姿と過去を受け入れることができなくて、
その卒業アルバムを捨ててしまった。

自分の中で忘れていた自分を突きつけられた僕は過去の自分を懐かしく思うこともできず、ただ嫌な思い出として、そっと蓋をした。
楽しかった思い出が全て台無しになったと卒業アルバムを心底恨んでいた。

この間、僕の奥さんと実家に帰省した時、母が捨てたはずのアルバムを出してきた。
本当に驚いたが、捨てられたはずのアルバムがそこにあった。

下腹の奥から何か嫌なものがこみ上げてきたけど、
この状態で奥さんに見せないわけにもいかず、
みんなで卒業アルバムを見ることになった。

当時、欠点しか見ることができずに封印してしまった卒業アルバムには
楽しい思い出、懐かしい思い出が至る所に残っていた。
高校生という多感な時期を過ごしていた思い出がいっぱい溢れていた。

いよいよ問題の合格発表のページを見た僕の奥さんは、大笑いしながら
「嫌がること何もないよ。
てか頑張って自分を変えることができたのなら、それってすごいことよ。」

たったそれだけの言葉が素直に嬉しかった。
やっぱり過去の自分を好きになることはできないけど、少し折り合いがついたような気がした。

卒業アルバムを捨てずにいてくれた母にも、お気楽な僕の奥さんにも感謝しながら、
少し安堵した僕は、いつにも増して笑っていた。